歌舞伎界の名門「音羽屋」の名跡を継ぐ尾上菊之助(現・八代目尾上菊五郎)は、類まれなる才能と家系の重みを背負いながら、新たなステージに挑み続けています。
2025年には、息子である尾上丑之助が六代目尾上菊之助を襲名し、父子同時の襲名という歴史的な一歩を踏み出しました。
- 「名跡を継ぐことのプレッシャー」
- 「親子での葛藤」
- 「芸の伝承と進化」
歌舞伎という世界で生きる尾上親子の姿には、現代人にも通じる深い学びが秘められています。
本記事では、尾上菊之助のプロフィールから家系、子供たちの歩み、そして襲名に込めた覚悟までを、分かりやすく丁寧に解説します。
歌舞伎に詳しくない方でも、読み進めることでその奥深い世界と親子の物語に心を動かされるはずです。

尾上菊之助とは何者か?
八代目尾上菊五郎として、名跡を継いだ歌舞伎界の正統後継者。
その人物像を「家系」「芸歴」「演技の特徴」「メディア出演」の4つに分けて紹介します。
日本屈指の歌舞伎一家に生まれる
名門・音羽屋の出身で、父母姉すべてが芸能界に名を残す家系。
家族構成の豪華さ
- 父:七代目尾上菊五郎(人間国宝)
- 母:富司純子(女優)
- 姉:寺島しのぶ(女優)
- 義父:二代目中村吉右衛門(妻・瓔子の父)
- 親戚:松本白鷗、松本幸四郎、松たか子 など
歌舞伎界・映像業界を横断するまさに「芸のサラブレッド」
菊之助の本名と出身
- 本名:寺嶋 和康(てらしま かずやす)
- 出身:東京都
- 学歴:青山学院高等部 → 青山学院大学文学部中退
幼少から歌舞伎と現代教育の両方に触れたバランスの取れた育成環境
伝統を継ぐだけでなく挑戦も重ねる芸歴
初舞台から現在に至るまで、常に時代と向き合ってきた姿勢が光ります。
主な襲名・初舞台
- 1984年:6歳で「六代目尾上丑之助」を名乗り初舞台
- 1996年:五代目尾上菊之助を襲名
- 2025年:八代目尾上菊五郎を襲名(父・七代目も現役続行)
史上初の“親子ダブル菊五郎”体制が誕生し、歌舞伎界に新風を巻き起こす
代表的な当たり役
- 『弁天娘女男白浪』 弁天小僧
- 『京鹿子娘道成寺』 白拍子花子
- 『摂州合邦辻』 玉手御前
- 『源氏物語』 紫の上
女形・立役どちらにも秀でた「柔と剛」の二面性を持つ希少な存在
古典から新作までを演じる柔軟な演技力
演じる幅の広さと、現代的な感性で若い観客層からも支持されています。
新作歌舞伎での挑戦
- 『風の谷のナウシカ』 ナウシカ役
- 『ファイナルファンタジーX』 ティーダ役
- 『NINAGAWA十二夜』 琵琶姫/獅子丸(二役)
「型」だけに縛られず、“感情”や“人間味”を前面に出す演出も好評
演出家との縁
- 演出家・蜷川幸雄との協働によりシェイクスピア作品を歌舞伎化
現代演劇との融合に成功し、国内外の注目を集める
映像作品やテレビにも積極的に出演
舞台にとどまらず、テレビドラマ・映画などにも出演し一般層にも認知を広げています。
主な出演作品
- NHK大河ドラマ『葵 徳川三代』『西郷どん』
- 『下町ロケット2』『グランメゾン東京』(TBS)
- 『カムカムエヴリバディ』 モモケン/桃山団五郎(二役)
多様なキャラクターを演じ分ける技術が光る
CM・ナレーション活動
- アサヒスーパードライ
- ヤクルト1000
- Audible「国宝」朗読 など
その落ち着いた声と表現力が、幅広い層に支持される理由の一つ
歌舞伎の中での当たり役と代表作
- 『弁天娘女男白浪』弁天小僧
- 『京鹿子娘道成寺』白拍子花子
- 『摂州合邦辻』玉手御前 など
豪華すぎる家系図
尾上菊之助(現・八代目尾上菊五郎)は、代々続く歌舞伎の名家「音羽屋」の出身。
その血縁関係をたどると、驚くほどの芸能界エリートが勢ぞろいしています。
尾上家は江戸時代から続く名門歌舞伎一家
長い歴史を誇る「尾上」家は、江戸時代から名跡を継承し続ける名門です。
三代にわたる名跡継承
- 祖父:七代目尾上梅幸
- 父 :七代目尾上菊五郎(人間国宝)
- 本人:八代目尾上菊五郎(旧名:五代目尾上菊之助)
- 息子:六代目尾上菊之助(旧名:尾上丑之助)
「菊五郎」と「菊之助」という二大名跡を三代で受け継ぐ、まさに音羽屋の本流
屋号と定紋
- 屋号:音羽屋
- 定紋:重ね扇に抱き柏
- 替紋:四つ輪
歌舞伎役者にとって「屋号」と「定紋」は誇りそのもの
女優・俳優としても名を馳せる母系の血筋
尾上菊之助の母と姉は、映画・テレビ界でも大活躍する実力派女優です。
母・富司純子(ふじ すみこ)
- 元東映のスター女優、旧芸名:藤純子
- 近年も映画・ドラマで活躍、落ち着いた演技力が魅力
映画『犬神家の一族』では親子共演も実現
姉・寺島しのぶ
- 女優として数々の映画賞を受賞
- 映画『赤目四十八瀧心中未遂』『ヴァイブレータ』などで高評価
華やかな家系の中でも異彩を放つ、演技派女優の筆頭格
親戚にも名優・名家がずらり!
尾上菊之助の血縁関係は、松本家や中村家など、他の歌舞伎名門にも広がっています。
義父・二代目中村吉右衛門
- 妻・瓔子の父(四女)
- 「播磨屋」の名跡を持つ重鎮
- 『鬼平犯科帳』の長谷川平蔵役で広く知られる
親戚関係にある有名人
- 松本白鷗(9代目)…松たか子の祖父、松本幸四郎家の長
- 松本幸四郎(10代目)…現・市川染五郎の父
- 松たか子(女優・歌手)…親戚関係にあり、舞台共演歴あり
歌舞伎と現代演劇、映画・音楽の世界まで影響を与える芸能DNA
次世代にも受け継がれる「芸」の遺伝子
尾上菊之助の子どもたちも、早くから舞台に立ち始めています。
長男・寺嶋和史(六代目尾上菊之助)
- 2019年:七代目丑之助として初舞台
- 2025年:六代目菊之助を襲名
長女・寺嶋知世
- 2022年:『風の谷のナウシカ』で「幼きナウシカ」役で初舞台
- 名前の由来は「世を広く知る子に育ってほしい」
次女・寺嶋新
- 2017年生まれ
- 名前の由来は「新しい挑戦を恐れずに」
三人とも、すでに歌舞伎界や芸能界での活動に意欲的な様子
親子同時襲名に込めた想い
2025年5月、「團菊祭五月大歌舞伎」で父・尾上菊之助と長男・尾上丑之助が同時襲名。
八代目尾上菊五郎、六代目尾上菊之助として、史上初の親子襲名が実現しました。
襲名のきっかけは父・七代目の言葉
すべては、七代目菊五郎の「おまえ、継げよ」のひと言から始まった。
襲名の背景
- 七代目は体調不良を機に「名跡の在り方」を再考
- 名跡は“元気に働き続ける象徴”であるべきとの信念
- 息子と孫の同時襲名という前代未聞の形を選択
“菊五郎”という名前に対する敬意と責任が、親子の決断を後押ししました
父・菊之助の苦悩と覚悟
長男の襲名にあたり、父として指導者として、葛藤の連続だったと語っています。
「襲名カレンダー」事件
- 息子がプレッシャーに爆発し、手作りのカレンダーを破る
- 翌日、父がラミネート加工して再作成し仲直り
厳しさの裏にある深い愛情が、息子の成長を支えています
稽古の指導で意識したこと
- 単に型を教えるのではなく「役の心情を理解させる」ことを重視
- 自身も苦しんだ「型と感情のズレ」を乗り越えた経験を活かす
演技に“魂”を込めることこそが、名跡の本質だと教えています
息子・六代目菊之助が感じたプレッシャーと決意
11歳の少年にとって、名跡を継ぐ重みは並大抵ではありません。
学校との両立の葛藤
- 小学6年生という多感な時期に、修学旅行・運動会も断念
- 友達との日常と歌舞伎界の非日常の狭間で揺れる心
舞台への意気込み
- 憧れの弁天小僧を演じられて「とても嬉しい」とコメント
- 「名前を小さくしたり、汚したりしないようにしたい」と発言
無垢な言葉の中に、覚悟と誇りが垣間見えます
親から子へと伝わる芸と心
単なる芸の継承ではなく、“生き方”を伝えるという強いメッセージが込められています。
父からの言葉
- 「心情を大事に」「答えを急がずに」「真っ直ぐに進め」
- “人生を通して芸を育てていく”という哲学
襲名披露の舞台裏
- 和歌山の道成寺へ親子で訪問し、清姫の心情を実地学習
- 芸の理解は、体験と心で感じることから始まる
襲名とは単に名前を継ぐのではなく、“使命を継ぐ”という儀式
まとめ
尾上菊之助(現・八代目尾上菊五郎)の人生は、まさに“名跡を生きる”という表現がぴったりです。
祖父・父から受け継がれた歌舞伎の技と心、そして時代とともに進化し続ける姿は、芸を継ぐことの厳しさと美しさを教えてくれます。
そのバトンを受け継いだ長男・六代目尾上菊之助。11歳という若さで名跡を継ぎ、父からの厳しくも深い愛情を胸に、舞台の上で懸命に生きる姿は感動を呼びました。
代々受け継がれる名と芸、そして心──それは決して血筋だけで成立するものではなく、日々の努力と苦悩、そして覚悟によって磨かれていくものです。
新旧の菊之助、そして菊五郎という2つの名前が同時に存在する今、歌舞伎の未来はますます希望に満ちています。
芸は人生を映す鏡。尾上家の物語は、きっと私たちの心にも響く生き方のヒントになることでしょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
コメント